TETAdy ー廣八幡宮で考える、未来に繋いでいきたい「神社」という場
「地域の子どもたちに、巫女の舞を教えています。
巫女さんはずっとできるわけじゃなくて、結婚したら終わり。
次へ次へと繋いでいかないと、なくなっていっちゃうので」
明るい表情で話してくださったのは、広川町にある「廣八幡宮」宮司のお二人の娘さん。
将来この神社を継ぎ、神職に就くために現在大学で学んでいます。
廣八幡宮の公式インスタグラムでは、子どもたちとお二人が、舞の稽古をしている様子が紹介されています。
教えているのは「浦安の舞」。
平和を神様にお祈りする神楽で、波のない穏やかな海を表現しています。
凛と舞う彼女たちの姿を見ると、私まで背筋がまっすぐに伸びるような、そんな感覚を覚えました。
「神ってる」
と、身近な人やものをすぐ神にしてしまう私は、「神様」や「神社」という場について深く考えたことがありませんでした。
「政治と宗教と野球の話はしてはいけない」という言葉が染みついているせいかもしれません。
特に宗教に関しては、「私はこう思う」という意見どころか、疑問を持つこともありませんでした。
ただ当たり前のように、神社は「地域にある場」として捉えていました。
はるか昔から、祈り、そして守られる廣八幡宮という場
今回は、宮司さんご一家に境内を案内していただく機会に恵まれました。
廣八幡宮は、約1500年前の6世紀中ごろに建立されました。
広川町の町とその先に海が見える高台に、この神社はあります。
1854年に広川町を襲った大津波の際、暗闇で逃げ場がわからなくなっている村人を救うため、濱口梧陵が稲むらに火を放ち、廣八幡宮への道を示しました。
この話は、「稲むらの火」として語り継がれており、現在もこの神社は津波の避難場所に指定されています。
近隣の子どもたちは「津波があったら八幡さんへ」の合言葉のもと、毎年11月5日の「世界津波の日」には、避難訓練が実施されています。
「津波で命が『ひろ』われた」。
この「ひろ」という言葉が、廣八幡宮の語源になっているという説もあると教えていただきました。
広川町の人々にとって昔からずっと大切な、かげがえのない場なのです。
人の手で継承される「神社」という場
この日は、特別に本殿もご案内いただきました。
社殿の屋根である檜皮葺(ひわだぶき)は、国の重要文化財に指定されています。
美しい曲線は、「檜皮葺師(ひわだぶきし)」とよばれる職人が一枚一枚樹皮を重ね合わせ、竹くぎで打ち止めています。
高い技術が必要な檜皮葺師は、全国に100人ほどしかいないそうです。
そして、檜皮を採取する「原皮師(もとかわし)」とよばれる職人の仕事も、高齢化などの人手不足で、文化と技術の継承が課題となっています。
檜皮葺をはじめ、自然の素材でできている神社の社殿は、20〜30年での修繕が必要です。
修繕には、億単位の費用がかかるとのこと。
神社が抱える深刻な課題を、初めて目の当たりにしました。
私が投じたお賽銭で、この社殿を未来に継承していけるのか。
一つ一つの美しい技術に目を奪われながらも、少しざわざわとした気持ちになりました。
このように、宮司さんのご家族からお話を伺ったことで初めて、当たり前にある「神社」が、人の手で守られている場であるということを実感しました。
地域との繋がりを大切にする廣八幡宮。
「まずは神社に足を運んでもらいたいですね」
と、温かな笑顔でこう言ってくださった宮司さん。
神社では、独自の祭典である「稲むらの火まつり」をはじめ、鬼が登場し豆まきをする「節分祭」や、ランタンが空に舞う「七夕祭り」などが催されてきました。
そして今年3月には、初めての試みとなる「わ。マルシェ」が開催されます。
桜の季節に、境内で広川町の食材を使った飲食店や、ワークショップのブースが出展します。
また、舞殿ではこれまでにも、神様に奉納する巫女の舞をはじめ、フラメンコやフラダンスのイベントが開催され、地域の人々が集う場となっています。
未来に繋いでいきたい「神社」という場
「小さい頃からこの環境で育ち、お正月やお祀りのときに巫女をやっていて、それが楽しくて」。
こう語る、娘さんたちの言葉がとても印象的でした。
神社の後継者不足が課題でもある中、守るべきもの、大切にしたいものを何気なく、そして楽しそうにお話しくださいました。
私とはとても年の離れたまだ若い彼女たちに、心からの敬意と、憧れの気持ちを抱きました。
「今年もいい一年でありますように」。
「赤ちゃんが無事、元気に産まれてきてくれますように」。
「すくすくと成長してくれますように」。
人生の節目節目に、願い、そして感謝する。
そんな場が、これからも変わらずこの場所にあってほしい。
こんな気持ちが心の中にそっと湧いてきました。
そして、
「神社とは?」
「神様とは?」
「宗教とは?」
次々に溢れ出てくる「もっと知りたい」という想い。
その一つ一つと大切に向き合いながら、また神社を訪れてみたいと思います。
廣八幡宮で考えた、「神社」という場を未来に繋いでいきたい。
そのために私にできることを、日々の暮らしの中で問い続けていきたいです。