矢倉遼典を紹介しようかい?―南紀はまゆう支援学校から続くSEKAI NO YAGURAの取り組み

TETAU

矢倉遼典を紹介しようかい?―南紀はまゆう支援学校から続くSEKAI NO YAGURAの取り組み

「協力したい」と心が動く―
彼のプレゼンを一度聞くと、きっと多くの人が、そんな気持ちになります。
矢倉遼典の大きな強みは、人の心にすっと入り込み、行動の一歩を引き出してしまうところにあるのかもしれません。

2025年春に、南紀はまゆう支援学校を卒業したSEKAI NO YAGURA(自称?)こと、矢倉遼典くん。現在、​就労継続支援B型事業所​に通所しながら、グループホームではTETAUのクリエイティブパートナーとして、テレワークのお仕事を担っています。
中学部2年生のときから、TETAUが教育現場で授業を行う「未来をてたうプロジェクトMIAI」を通して、ICTやクリエイティブ、企画について学んできました。南紀はまゆう支援学校で培った経験とスキルを土台に、卒業後の今、その想いを次へとつなぐ新たなプロジェクトを始めようとしています。
今回は、そんな矢倉くんの学生時代の学びと、これから成し遂げていきたいことへの想いについて、まとめてみました。

周りの人に笑顔になってもらいたい―在学中の取り組み

・将棋コマのクリアファイル制作
・在校生向けの試飲会、ファーストコーヒープロジェクト
・南紀はまゆう支援学校開校式典用のコーヒーパッケージ(在校生の指スタンプを集めたデザイン)
・学校祭でのコーヒー販売
・学校の先生方向けにECサイトでのコーヒー販売
・南紀はまゆう支援学校作業班の取材、パンフレット制作
・株式会社モリカワ様にて、南紀はまゆう支援学校オリジナルブレンドコーヒーの店舗での期間限定販売

「え!?仕事ですか?」と思わずつっこみたくなるような業績の数々。
学生時代、TETAUが提供する授業を通して矢倉くんが行ってきたプロジェクトです。専用のペンを口にくわえて、タブレットを操作。授業で学んだデザインやexcel計算なども自在にこなします。

授業内で企画を考える際、いちばん大切にしてきたことは、矢倉くんが心の底から「やりたいものであるか」ということです。なぜその企画をやりたいのか、それを紐解いていったときに、彼の中にはいつも一つの大きな芯がありました。それは、「周りの人に笑顔になってもらいたい」それが彼の喜びにつながっているということでした。
彼がこれまで制作してきたものには、とにかく、ほんまにおやじギャグレベルの(ごめん!)ダジャレが散りばめられています。
ちなみに、本記事の『矢倉遼典を紹介しようかい?』というタイトルは、矢倉くんが学生時代に制作した学校の作業班紹介冊子『うちの作業班のこと、紹介しようかい?』にちなんだものです。(正確には、パクらせていただいてます。)
そして、ちょっとスルーしておきたい「SEKAI NO YAGURA」についても一応触れておくと、南紀はまゆう支援学校の先生方向けにECサイトを立ち上げた際、購入時に入力していただくパスワードとして設定したのが、この「sekainoyagura」でした。先生方に「世界の矢倉」と入力させてしまう、そのメンタルの強さはもう最強です。
そんな遊び心とダジャレ効果なのかはしらんけど(しらんけど)、矢倉くんがいるとなぜか周りが明るくなる、そして協力したくなる、そんな人を惹きつける力を秘めています。

 

人の心を動かすYAGURAプレゼン

何かやりたいことがあるとき、誰もが必ず直面するのが、「誰かの力を借りる」ということです。矢倉くん自身、周りの目を気にして、自分の思ったことを言い切れない。そんな場面が、授業のなかでも度々ありました。
「すぐに返事ができるようになりたい」
TETAUが授業を始めた当初、矢倉くんはそんな言葉を口にしていました。でも、「ほんとにそれが大事なんかな?」という投げかけがありました。
「すぐに返事ができなければならない」というのは、もしかすると思い込みなのかもしれない。自分自身も、相手にそれを求めているわけではない。今では、そんなふうに考えられるようになったと言います。
そして、ボッチャや将棋を得意とし、「本番」という場面では、本来の力を発揮する矢倉くん。「プレゼン」というステージに立つと、自分が何を伝えたいのかがしっかりまとめられ、キャッチーな言葉とイラストを使って人の心を突き刺す「YAGURAワールド」に人々を惹き込んでいきます。
先ほど述べた数々のプロジェクトも、多くの人の力があってこそ実現してきました。その一つひとつの場面で、彼自身のスキルとセンスでつくり上げてきたプレゼンが、人と人をつないできたのです。
企業の方々、学校の校長先生や教頭先生をはじめとする先生方、取材に訪れた新聞記者さんに、渾身のダジャレ(←いるん?)を織り交ぜたプレゼンを通して、矢倉くんは多くの協力者を生み出してきました。

新たなプロジェクトに向けて

私(本記事の筆者)も、そんなYAGURAワールドに惹きつけられた一人です。現在は、プロジェクトを見守るチームの一員として、企画に関わらせていただいています。
今回、この記事をまとめたいと思ったのは、現在、矢倉くんと企画を進めていくなかで、「私たちはなぜこのプロジェクトをやりたいと思ったのか」その原点を見失わないようにしたいと感じたからです。矢倉くんのこれまでの学びと、これからの歩みを、ここに記しておきたいと思いました。

矢倉くんが学生時代に企画してきたコーヒープロジェクトは、株式会社モリカワ様をはじめとする多くの企業さま、南紀はまゆう支援学校の先生方、保護者の皆さま、そして地域の方々から、たくさんの応援をいただいてきた取り組みです。地元紙『紀伊民報』様にも大きく取り上げていただきました。その想いを次につなげるために、私たちは今、じっくりと時間をかけながら、次の一歩を踏み出そうとしています。
彼が大切にしてきた「周りの人に笑顔になってほしい」という想いが、現実の場面として形になる瞬間を、私は何度も見させていただきました。そしてその想いは、私自身に変化をもたらせてもらったように、きっと社会の中で、大きな価値を持つものになる——そう信じています。

南紀はまゆう支援学校を卒業してからの半年余り、私たちは、企画を考えては振り出しに戻る、という作業を何度も重ねてきました。誰もが快く協力してくれた学生時代とは違い、社会人として進めていく企画は、想像以上に決断と責任を伴うものであり、正直、少し時間がかかり過ぎているかもしれません。けれど、それもまた、私たちらしい歩みなのだと思っています。
先日、成人を迎えた矢倉くん。いよいよ本物のオヤジとして、本格的なオヤジギャグを言い出しかねないので、そろそろ実現に向けた一歩を、踏み出していきたいなと思います。

これまでこのプロジェクトを応援してくださった皆さまへの感謝の気持ちを胸に、私たちはこのプロジェクトを、少しずつ実現させていきたいと考えています。これが、私たちの自己満足なものではなく、本当の意味で社会の中で価値あるものであるよう―。
ゆっくりではありますが、私たちらしい歩みを、これからも見守っていただけるとうれしいです。