半径500mで紀伊田辺の文化を味わうニッチな1泊2日
紀伊田辺駅にフォーカスした1泊2日の旅行。駅には待合室と小さなコンビニがあり、隣に観光案内所があります。時代の変化とともにショッピングセンターがある場所へ人が集まり、賑わっていたこの場所も人通りが少なくなったそうです。そのような背景があり、駅周辺には何もないなんて声をよく聞きます。
しかし昔、紀伊田辺駅周辺は中辺路ルート(熊野古道)の入り口になる宿場として栄えていました。苦行難行であった険しく厳しい山中を行くため、気を引き締めて出発し、無事に戻れば祝いの風習がありました。そこには甘味が欠かせなかったのではないか、と感じるほどに老舗のおいしい甘味が残っている場所です。地域の魅力発掘の視点から、ニッチな紀伊田辺駅旅行を案内します。
目次
1日目は熊野詣のスタート地点を巡り、夜をノスタルジックな飲み屋街で過ごす
扇ヶ浜公園と熊野古道の潮垢離場(しおごりば)
壇ノ浦の戦い、源氏側で熊野水軍の出陣を決めた世界遺産鬪雞(とうけい)神社
鬪雞まんじゅうだけではない二宮の和菓子
ノスタルジックな飲み屋街、味光路で紀伊田辺グルメに舌鼓
2日目 南方熊楠が暮らした紀伊田辺と和菓子
喫茶店でモーニング
難題に立ち向かった頭のよい神様を祀る蟻通神社
熊野古道の道しるべ「道分け石」のお守り
熊野詣を終えたお祝いの風習、山祝い餅
地元の人に愛される和菓子屋、辻の餅
粘菌の博士、南方熊楠顕彰館
あおい書店の趣ある紀南愛
田辺駅構内に販売がない駅弁
1日目は熊野詣のスタート地点を巡り、夜をノスタルジックな飲み屋街で過ごす
中辺路ルート(熊野古道)の入り口になる宿場として栄えていた紀伊田辺駅周辺。1日目の初めは、紀伊田辺駅より15分ほど大通りを直進した先にある扇ヶ浜へ行きます。熊野詣で欠かせなかった禊を体験して、世界遺産である鬪雞神社に行きます。
昼ごはんは紹介していませんが、扇ヶ浜に行く大通り沿いやその付近に何店舗かランチをしているレトロな喫茶店や飲食店があります。「なんだ喫茶店か」と、思うかもしれませんが、田辺の喫茶店は個性あるお店が多いのでおすすめです。
夕食はノスタルジーな雰囲気ある飲み屋街で夕食を堪能します。距離は駅からそれほど離れていないので、ゆったりと紀伊田辺駅周辺を散策しましょう。
扇ヶ浜公園と熊野詣の潮垢離場(しおごりば)
大通り沿いを直進し、つきあたりに扇ヶ浜公園があります。空の色によって色が変わる海。扇ヶ浜は基本的に穏やかな波が気持ちよいです。紀伊田辺駅に着いて、まずおすすめしたいのんびりできる場所です。
ここは海水浴場として知られていますが、公園やスケートボード場などがあり、季節を問わず利用している人が多いです。トリムコースが設けられていて、散歩するととても気持ちがよいです。
そして、扇ヶ浜公園には潮垢離場があります。その昔、熊野詣をする人は禊をしながら巡礼するのが習わしだったそうです。和歌山の海沿いを歩き紀伊田辺から山へ入る人々は、海からしばらく離れることになるので潮垢離をしたといいます。熊野詣をした人々を思いながら、潮垢離を体験するのもおもしろいです。
なお、扇ヶ浜は和歌山県の夕日100選にも選ばれています。夕方にもし時間があれば、日没時刻前にふたたび訪れ夕日をみに行くのもおすすめです。
壇ノ浦の戦い、源氏側で熊野水軍の出陣を決めた世界遺産鬪雞(とうけい)神社
紀伊山地の霊場と参詣道、世界遺産である鬪雞神社は扇ヶ浜より10分ほど歩くと到着します。ここは熊野詣の人々が心願成就を祈願していたと伝えられています。
今から約840年前にあった壇ノ浦の戦いの際、熊野水軍が平家と源氏のどちらに味方するか「鶏合わせ」という神事をおこないました。「鶏合わせ」とは鶏が闘い勝負を競います。この闘いの結果、源氏側とした鶏が圧勝し熊野水軍は源氏側につくと決めました。源氏側の勝因として、熊野水軍が加勢したことが大きかったと言われています。
その際にその場にいたというのが「牛若丸と弁慶」で有名な武蔵野坊弁慶。今も語り継がれる伝説があります。弁慶はこの地域が出身と伝えられていて、境内には弁慶社が建立されています。
また、最近は多種多様なおみくじを見かけることが増え、鬪雞神社のおみくじも種類が豊富にあります。特に、ニワトリの形をしたコロンと丸く可愛らしいおみくじは、部屋に飾っておきたくなるほど愛くるしいです。
プレミア和歌山「鬪雞まんじゅう」二宮の和菓子
鬪雞神社の近くに二宮という和菓子屋があります。大福餅やみたらし団子、どら焼き、おはぎ、回転焼きなどがある和菓子屋。「みたらし団子がおいしい」「回転焼きを買うのに並んだよ」など聞くことがある、地元の人々から愛される人気店です。店内には甘味処があり、おいしい和スイーツをいただきながら休憩できます(スイーツとドリンクのみでごはん類はありません)。
ここで販売されている鬪雞まんじゅう。プレミア和歌山にも認定されている銘菓です。鬪雞神社の参道にあり神社を詣ったお土産にも。1つ1つの包装も中身もかわいいお饅頭。9個入りの箱にすると、箱が鶏合せの土俵になっていて、鶏と鶏の相撲ができるようになっています。
そして南方熊楠っまんじゅうもあります。
NHKの朝ドラ”らんまん”でも話題になった南方熊楠は田辺に定住していました。奥様は鬪雞神社の宮司の娘だったそうです。熊楠はあんぱんが大好きで、好きになった女性にあんぱんを30個も贈ったことがあるとか……。
二宮の南方熊楠っまんじゅうはあんパンをイメージした和菓子。餡を包んでいる皮があんぱんみたいでおいしくてびっくり!おすすめです。南方熊楠っまんじゅうもプレミア和歌山に認定されています。
ノスタルジックな飲み屋街、味光路で紀伊田辺グルメに舌鼓
紀伊田辺駅から1分で紀南地域最大とされる飲み屋街、味光路(あじこうじ)に着きます。画像、味光路イラストMAPが味光路の入り口など数か所に設置されています。200m四方の小さなエリアに居酒屋やバー、スナックが200軒以上あったそうです。
かつては味光路という名前はなく親不孝通りといわれていました。夜遅くなるほど動き出す街です。今は店舗数も減ってしまいましたが、ノスタルジックな飲み屋街として国内外の観光客に人気があります。
この辺りではカツオがたくさん獲れます。その中で、その日の夕方にしか出回らない「もちがつお」というものがあります。これは名のとおり、餅のようにもちもちしている食感を楽しめるカツオ。一度食べるとやみつきになる人も多くいます。賞味期限が5時間といわれるほど短く、ほとんどが地元で消費され外に出回りません。もちがつおを食べたことがない人は味光路で味わっておきたいところ。
他は季節によってうつぼ、ながれこ(トコブシ)、ヒメチ、地元産のタコなど、海に恵まれたこの地域らしいメニューを置いているお店が多くあります。
2日目、南方熊楠が暮らした紀伊田辺と和菓子
田辺の喫茶店モーニングから2日目が始まります。紀伊田辺の文化と和菓子、そして南方熊楠顕彰館を訪問します。熊野詣の宿場であった紀伊田辺には甘味は欠かせなかったのであろうと感じるほどに和菓子屋が多く、1つ1つの味が洗練されている気がします。
宿泊先に関して少し話すと、駅周辺では素泊まりがおすすめです。なぜなら夜は味光路の店を堪能できて、朝はモーニングができるからです。紀伊田辺駅にはビジネスで来る人が多く、駅周辺のホテルはどこも満室の可能性があるので予約は早めに取っておくほうがよいでしょう。
喫茶店モーニング
田辺駅付近は老舗の喫茶店がそろっているので、旅行の際はどこかでモーニングするのがおすすめ。このあたりは、「トーストとゆで卵とコーヒー」という簡単なものより、豪華なスタイルで出てくるのが田辺の喫茶店モーニングの特徴に感じます。
こちらのお店は喫茶店ケルン。
心をこめて丁寧に作って下さるモーニング。トーストと目玉焼き、ハムときゅうりとトマトがついたサラダ、そしてナポリタン。タイミングを合わせて出てくるコーヒーとともに、ゆったりとおいしいモーニングがいただけます。
難題に立ち向かった頭のよい神様を祀る蟻通(ありとおし)神社
ケルンから歩いて5分ほどにある蟻通神社。鬪雞神社に行ったならば、ここもおすすめしたい神社です。この神社には蟻通の神(知恵の神様)が祀られています。小さい神社ですが、気のよい神社で境内には大きな楠があります。昔このあたり一帯が大火事に見舞われた際、この大楠から水が出て地域が守られた言い伝えがあります。
境内は珍しいつくりとなっていて、鳥居をくぐると本殿が背を向いているのでU字のように回ってお詣りします。
熊野古道の道しるべ「道分け石」のお守り
蟻通神社から5分ほど歩くと「右 きみゐ寺」「左 くまの道」の道分け石があります。これは昔は熊野街道の道しるべでした。道分け石の隣には道分け石と熊野古道のストラップがあります。
このストラップは熊野古道の木で作られていて、梛の木の葉のお守りが入っています。
梛の葉は、丈夫で切れないことから縁が切れないお守りとされています。守り袋や鏡の裏に入れておくと悪鬼を除き、災難を免れると信じられています。お土産にしても喜ばれそうです。
熊野詣を終えたお祝いの風習、山祝い餅
道分け石から徒歩すぐにある和菓子屋、富美堂。昔、この辺りは田辺城下の宿でした。熊野詣はとても険しく長い道のりで、難行苦行の連続であったそうです。江戸時代に関東地方からの客が熊野詣を無事に終えたことを祝って田辺城下の宿で皆にふるまったと言われている山祝い餅。文献を頼りに富美堂が再現しました。
味は2種類あってどちらも個性がありおいしい。柚子が入った白あんの赤米餅は柚子の香りがガツンときます。黒米の餅はゴマがたっぷり入った風味、香ばしさが入っています。当時の人々はビタミン、ミネラル、植物繊維が豊富な古代米で疲れた身体の英気を養ったといいます。
山祝い餅は冬限定で販売しています。
地元の人に愛される和菓子屋、辻の餅
こちらの和菓子屋も紀伊田辺駅周辺の旅行で外せない店です。創業が江戸時代の天保年間という辻の餅。当時は熊野古道を行く人々のお茶屋であったそう。地元の人から人気の老舗で常にお客さんがいます。演歌歌手の坂本冬美さんは田辺市の隣、上富田町がご出身で辻の餅の和菓子をよく買いに行っていたそうです。
素朴なおいしさの和菓子が多種そろっています。
博物学者、生物学者、民俗学者である南方熊楠は、ここから徒歩5分のあたりに住んでいてよく立ち寄っていたそうです。いつもおけし餅を懐に入れては近所の子供に配っていたという話があります。
粘菌の博士、南方熊楠顕彰館
南方熊楠が田辺市で25年間住んだ旧邸の隣に、南方熊楠顕彰館はあります。主に熊楠邸の書物や日記、資料や論文などを収蔵している施設。1階には熊楠の生涯を解説した展示があり、2階には、デジタル実体顕微鏡や自由に読める書物があります。
また、顕彰館の隣では、熊楠の旧邸を見学することができます。(一般……350円/1人、高校生以下……無料)
元は田辺藩士の屋敷で、広い土地を分筆したものでした。旧邸は傷みが激しく、2006年に当時の姿に復原されています。邸内には大きな楠や柿、みかんの木があり、顕花植物は約200種類あります。熊楠が生活していた庭は重要な研究所でもありました。
あおい書店の趣ある紀南愛
あおい書店には南方熊楠の本や紀南地域の文化や歴史を知る本などが陳列されている紀南コーナーがあります。
この一角は店主の趣味で作ったそうです。地元の書店でしかできないオリジナリティーあるラインナップと、気遣いを感じ、おもしろいです。書店は南方熊楠顕彰館から徒歩7分ほど先のアオイ通りにあります。
田辺駅構内に販売がない駅弁
公共交通機関の旅の最後は駅弁の楽しみがあります。紀伊田辺駅の構内は、待合所と小さなコンビニが1店。
駅構内で駅弁の販売はみあたらず、駅を出て徒歩5分ほどの場所にありました。
それは、前述したあおい書店の隣にある味三昧という弁当屋。こちらで駅弁を販売しています。昔は紀伊田辺駅で販売していたそうなのですが、販売できる場所がなくなってしまったとのこと。味三昧では5種類の駅弁があり、地元ならではの一品がたくさん味わえる内容となっています。お店の方に駅弁がほしいと伝えると用意してくれます。
駅弁の竹かご弁当を注文する場合は事前に予約が必要となります。
駅弁は作り手の顔が見えないのがほとんど。作ってくださっている方の顔を直接見て購入できるのはとても嬉しい機会でした。駅での販売にすっかり慣れきっていて、外で購入するのが新しい発見のような感覚でした。考えてみると駅で売っている駅弁も、業者の方が毎日駅に運んでくださっているのですが……。非日常な体験でした。
駅弁を購入し、駅に向かい今回の旅路も終盤。あとは無事に家に戻るだけです。半径500mで紀伊田辺の文化を味わう1泊2日。今回一番長い移動距離は紀伊田辺駅から扇ヶ浜までの1kmでした。地域の文化を感じるニッチな旅行は旅行者にとっては新しく、刺激を残してくれる旅となりました。
●紀伊田辺旅行のスケジュール(1泊2日)※すべて徒歩で移動
●1日目のルートマップ
●2日目のルートマップ