人生をかけてやりたいこととは?~森脇碌さん(TETAU事業協同組合理事)~
「凸凹のパズルのピースをはめていくことが大切なのです」。テレワーカー養成研修でTETAU(てたう)理事の森脇さんからこの言葉を聞いたとき、学生時代に「多文化共生」を学んだ私は、自分の価値観と共通する部分があると感じました。パズルのピースをはめるとは、一人ひとりが自分の強みや特性を生かし、社会を作っていくという意味です。では、なぜ森脇さんはこう考えるようになったのでしょうか?きっかけは、「強き者だけを集めた組織は弱い」と言った、森脇さんのお父さんの言葉でした。
人生をかけて、父からの問いを探究し続けたい
強き者だけを集めた組織は弱い。つまり、多様な人々で構成される方が社会は豊かになるということ。中学生のころ、森脇さんはお父さんからこのように教わりました。当時は懐疑的だったものの、それ以来ずっとこの言葉が頭の片隅にあったそうです。
「人生をかけて、父からの問いを探究し続けたいんです」と言う森脇さん。この問いに対する知的好奇心が、すべての原動力だそうです。私は当初、森脇さんは社会的に課題を持つ人を支援したいのではと推測していたため、予想外の返答に驚きました。
「私は自分のエゴのためにやっているのです。みんなの幸せを実現しなければ、私の目的は達成されない。一見、世のため・人のために動いているような人でも、必ずその真ん中に自分のエゴがあると思います。他人のためだけに頑張るのは、限界があるのでは。自分の器を超えるようなことが起きたときに、乗り越えられますか。存在意義を相手に委ねるのではなく、思ったことをそのまま言ったり、行動に移したりした方がいいと思う」。
人生の主役は自分。自分自身で考えて決めたことなら、それでいいのです。個人が自分の幸せを追求することが、結果的に周りを幸せにすることに気づかされました。
まずはTETAUという社会で理想を実現したい
「私はTETAUという小さな社会でまず実現したい。ある部分では強い人もいるし、弱い人もいる。つまり凸凹を補い合いながら共存している状態です。だから、TETAUは『超個体』、つまり一つの有機体のようなものだと捉えています」。
そう語る森脇さんは、2017年に東京から和歌山の紀南に移住しました。森脇さんのクライアントの一つであった、TETAUのメンバーに呼び寄せられ、地域の課題解決にやりがいを見出したそうです。
TETAUはICTとクリエイティブで、課題解決と価値創造を行う組織です。メンバーは全員がフリーランス。年齢は10〜60代と幅広く、それぞれが自分の仕事をしながら組織の運営をしています。しかも、テレワークであるため、子育てや介護があったり持病や障害があったりしても、自分のペースで働けるのです。
事業内容は、ビジネスアシスタントから学校教育の支援までさまざま。クリエイターたちが、自分の強みや特性を生かしています。たとえば、処理能力が速くコツコツ作業が得意なのであればBPO(自社の業務を外部へ委託すること)の仕事、言語スキルが高く熟考するのが得意であればライティングなど。以前、雇用形態で働いていた私にとって、特性を生かして仕事をするという仕組みは非常にユニークだと感じます。
そして、「自分らしさを発揮することが最大限の生産性につながる」という共通認識があるTETAUには、「嫌なことは嫌と言う」「自分の機嫌は自分でとる」というルールがあります。たとえば、苦手な仕事は無理に引き受けなくていいし、引け目を感じる必要もありません。自分でマインドをセットして、得意な分野で力を発揮すればいいのです。そして、積極的なチャレンジを受け入れてくれる風土もあります。私はTETAUに参加することで、多様な社会を作っていく一員になりたいと考えています。
社会の仕組みを変えることが至上の喜び
洞察力がある森脇さんは、子どものころから何事も筋が通っていないと気持ちが悪かったとおっしゃいます。そのため、難しい子だと見られることもあり、自分を理解してもらうのは不可能だと思うこともあったのだとか。しかし、大人になるにつれて、自らの手で実現していけばいいことに気づいたそうです。
森脇さんには、自分の信念のためには絶対にブレない、芯の強さがあります。子どものころに抱いた疑問を絶やさずに、今も探究し続けられる姿がすばらしいと伝えると、こう返答がありました。
「私がやっていることは、人生をかけた壮大な趣味みたいなものですよ。最もうれしいのは、社会の仕組みが変化したっていう感覚。編み物が好きな人が『セーターを編めた!』という喜びとほぼ同じだと思います」。
「趣味」という言葉に驚きましたが、それが森脇さんの本心なのでしょう。お話を聞けてTEAUに参加する意義を改めて実感しました。そして、森脇さんに出会えたことを幸運だと思わずにはいられませんでした。